戦争の美術史

戦争の美術史

【タイトル】

『戦争の美術史』宮下規久朗,岩波書店,2025

【テーマ】

古代から現代に至る5千年の戦争と美術の歴史を俯瞰し、画家たちが戦争の真実にどう向き合ってきたかをたどること。その大きな流れのなかで、日本の戦争画を単なる善悪ではなく、客観的な美術史の視点から位置づけること。

【なぜこの本を読んだか】

戦争について書かれた新書をいくつか読むなかで、政治や歴史の観点だけでなく、「美術」という別の切り口から迫ってみたいと思ったから。

【学んだこと】

  • 戦争美術の性格は、①記録する ②戦勝を記念する ③反戦・平和を訴える ④追悼する ⑤芸術性を追求する、の5つに整理でき、歴史のなかでほぼ順番に登場する
  • ひと口に「戦争美術」といっても、絵の注文者(為政者、国家、軍人、個人など)やその意図によって、目的や描かれる表現はまったく異なるものになる
  • ウッチェロ、ドラクロワ、ゴヤ、ピカソといった作家たちの名作は、その構図や表現が後世の美術家に継承され、戦争美術の歴史を形作るうえで大きな影響を与えてきた
  • 戦争は公的な出来事であり、それを描く戦争美術も公的な性格が強く、集団的記憶の形成に深く関わってきた
  • 敗戦国(日本、ドイツなど)の戦争美術は戦後の評価において否定的に扱われやすい傾向にあるが、美術史の観点から客観的に評価し、その位置づけを定めることも重要である
  • 第二次世界大戦以降は、映像や写真の圧倒的な臨場感が戦争のイメージを支配するようになり、絵画や彫刻などの美術作品が果たす役割は小さくなった

【視点の変化】

  • 本書を読む前は、戦争美術とは戦争の悲惨さを伝えたり事実を記録するためのものだと思っていた
  • 事実より意図が優先される場合もある:描き方や構図は、注文者がアピールしたいことに合わせて決められることが多かった。例えば、ダヴィッドの「アルプスを越えるナポレオン」は、実際の姿よりも力と権威を誇示するために描かれたものだったと知って、これまでの疑問(なぜこんなに目立つ格好で戦地にいるのか?真っ先に狙われるのでは?など)が解消された。
  • 美術家の立場への想像:注文者と同じ使命をもって描いた人もいれば、意に沿わない作品を作らざるを得なかった人もいただろう。日本の戦争画もタブー視するだけでなく、そうした美術家たちの境遇や政治的背景ごと向き合うことが大切だと感じた

【感想】

わたしがまだ7歳くらいの子どもだった頃、祖父が運転する車で自衛隊の基地前を通りかかったときに「おじいちゃんがまだ若くて、日本が戦争をしていたころの写真ってみんな白黒だけど、空は今とおんなじように青かったんだよね」と言ったことがあった。祖父は一瞬だまったあとで、とても嬉しそうに「そうだよ、とてもいいことに気がついたね」と言ってくれた。自衛隊の人たちの服装や装備を見て戦争を連想し、抜けるような青空を見て思ったことを口に出しただけなのに、普段は厳格で威圧的な祖父に褒められてびっくりしたのをよく覚えている。当時のわたしにとって、それはとても不思議で、強く心に残る印象的な出来事だった。 

本書を読み終えたとき、ふとそのことを思い出した。わたしが生まれたあとに起きた戦争や災害などの出来事は、カラー写真や映像の記憶で残っている。でも、写真や映像で残す技術がなかった時代は、戦争美術が集合的記憶を作る役割を担っていた。考えてみればあたりまえのことなんだけれど、戦争美術が時代によってその性格をどのように変えていったか、著者の解説や数々のカラー画像で追いかけていくうちに、あらためてそのことを実感した。 

また、日本の戦争画について全く知識がなかったので、本書を読んで驚く箇所がたくさんあった。特に印象に残ったのは、戦況が悪化するなかでも戦争画が多く描かれ、国民はそれらを熱心に鑑賞し、精神的な支えにしていたらしいということだ。戦時中の人々のイメージからはかけ離れていたため、にわかには信じがたかったけれど、美術にはそのような力があるというのは想像できる。 今回は図書館で借りて読んだが、きっとこれからも折に触れて読み返したくなると思うので、ぜひ購入しようと思う。

¥1,496 (2026/05/11 08:02時点 | Amazon調べ)